これはある日の出来事だった。
嘘っ!て思われるかもしれないが本当に起こった、いや、やってしまったことだ。
ことの発端は正月が過ぎて1ヶ月が経つか経たないころ、古嫁が温泉にでも行くかって言ってきた。
自分は「温泉もいいなあ」っと二つ返事で賛成した。
もちろん、二人だけでは無い、孫を連れての話しだ。
二人だけで出かけても無言で行って無言で帰ってくる。別に夫婦仲が悪いわけでは無い。
っと言うわけで孫を連れて一泊とまりの温泉旅行に行くことにした。
言い忘れたが孫と言うのは小3の男の子だ。良くしゃべる、誰に似たのか。
実の娘の子だ、早く言うと嫁ぎ先から返品を食らって一緒に暮らしているのだ。
自分にとっては目の中に入れても痛くないほどの孫だ。
で、行く3日前に衝動的に決めた。
ことが起きたのは、行く当日の朝の話になる。
家を出て2時間も走ったころ、高速道路のパーキングのトイレ休憩に入った。
用をたしたのでパーキングを出発し、二つ目のインターチェンジを過ぎたころだった。
孫が、
「バビーが居ない!!」っと言い出した。
この、バビーってのは、古嫁が自分のことをバビーって幼いころから言わせている。
バビーがババアに変わるのは時間の問題かもしれない。
で、自分もまさかっと思い、後ろを振り向くが本当に見当たらない、もしかして三列目のシートで寝ているのか、
古嫁は車に乗ると良く寝る、大きな声で呼んでみるが返事が無い。
「やってもうた!!」
そうだ、さっきトイレ休憩に立ち寄ったPAに置き忘れてしまったのだ。
とても考えられないことが起きたと実感し、顔から血の気が引いた。
しかし、戻るにも高速道路なのでUターンしたくても出来ない。
次のインターまで行って戻るしか無いのだ。
この時ほど次のインターが長く感じたことはなかった。
何故、古嫁を忘れてきたのか、それは、自分と一緒に車に乗るときは、何時の日からか後部席に乗る様になっていた。
その日も孫が助手席で古嫁は二列目の右側、いわゆる自分の真後ろの席に乗っていた。いや、乗っていたハズだった。
普段から会話が無いので後ろでおとなしく乗っているものだと思っていた。また、何気に後ろから人の気配を感じていたので気にもとめていなかったのだ。
さっきのPAでトイレへ向かったのは、自分が先だった、その後、どうやらトイレに向かったらしい。
これは後で古嫁が言ったことだ。
まあ、理由はとにかく一刻も早く戻らねば、次のインターで一旦降り、再度、高速へ乗る。
普段はいくら高速道路でも出しても100km/hしか出さない自分が、今は140km/hで突っ走る。
たまに、高速道路を140km/hくらいでかっ飛んで行く奴がいるが、今の自分みたいに何かの事情があってかっ飛んで行くのだろう。 だぶん。
この時のアクセルペダルはやけに重い、何故か、古嫁の怒っている顔が目に浮かぶ。
今の心境は、早く戻らねばの気持ちと、戻ったら何と言おうかがグルグル頭の中で回っているのだ。
そうこうして居る内にさっきのPAに着いた。やはり140km/hは早い。
たまたま、ここのPAはスマートインターと一緒になっていたのは幸いだったこともある。
そして再会の時がきた。女トイレの方へ行くと中から出てきた。
その一声は「嘘でしょ!信じられない!」だった。
かなり怒っているのだろう、それもそのはず、ここへ戻るまでに1時間ほどかかっている。
それも薄着で寒空の下で待っていたのだから無理もない。
とりあえず。「悪い悪い、乗っているかと思っていた」これが自分からでる精一杯の言葉だ。
今どきの若い奴なら抱きしめるかもしらないが、60過ぎのオッサンにはそんな派手なことは到底無理だ。
だが、あまりにも怒っているのか、いつもより迫力が無い、
かなり怒っているか、情けないので怒る気にもならないのかもしれない。
とりあえず一件落着ってことで温泉地に向かうが、車の車内は重い空気が漂って酸欠状態だった。
これが「孫じゃなくて良かった・・・」 本音かも